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NO.4までは季刊、それ以降は隔月刊で発行。「高くて内容が濃かったから、隔月でちょうどよかったの」(Bさん)。

まずはプロフィールからお聞かせください。
Bさん(以下B)  1955年、東京生まれの東京育ちです。
Mさん(以下M)  私も同じ。Bさんの中学校時代の同級生です。

『私の部屋』が創刊されたのは1972年。お二人が読み始めたのはいつごろからですか?
B   たぶん創刊当初、17歳くらいから読み始めたんじゃないかしら。高校生のときは立ち読みが主で、きちんと買い始めたのは、大学生の頃からかな。
M  お小遣いが限られてるから、最初は立ち読みだったのよね。今と違って、高校生がお小遣稼ぎにアルバイトするっていうのも珍しい時代だったし。

この「390円」という定価は、当時の女の子にとっては、どんな感じでしょう。物価も今とは違いますよね (注4)
M  高いわよね。
B  うん、当時の高校生には高かった。他の雑誌は200円代で買えたから。だから毎号は買えなかった。
M  今の感覚でいうと1000円くらいかしらねぇ。ちょっと高い雑誌だったのよ。

読み始めたきっかけを教えて頂けますか?
B  私は、お友だちが読んでいて、すすめられてという感じかな。

ということは、『私の部屋』を買っている子は結構、多かった?
M  そんなにいなかったよね。『セブンティーン』 (注5)みたいなメジャーな感じじゃないもの。 『セブンティーン』は、もっと安かったから、買ってる子、多かったわよね。あとアイドルの出ている『明星』とかも。
B   普通の子はそういうのを買って、そうじゃない、いわゆるおしゃれな雑誌を買う子は、一部だった。 『私の部屋』を読んでる子は、少なかったわねえ。
M  クラスに一人か二人が買っている、マイナーな雑誌だった。『セブンティーン』のほうは三人に一人くらいは買ってるか、読んでたよね。

『私の部屋』の前身として『服装』という雑誌がありましたが。 (注6)
M  たまに読んでた。当時は、洋服を作る人が多かったから。
B  私は読んでなかった。『装苑』は姉が時々買っていたけど。

『私の部屋』と『服装』との読者はかぶっていたんでしょうか。
M   んー。やっぱり『服装』は洋裁の雑誌だから、洋裁のために読んでいた人も多かったと思う。あのころ洋服を自分で作るのが、普通だったし、多かったから。かわいい生地を下北とかで探してね。
B  今みたいに、ぜんぶ(既製服として)売ってる感じじゃなかったわよね。
M  それもあって『服装』の読者の全部が『私の部屋』を読むようになったとは限らないかもね。洋裁はしないけれど、もっと文化面の記事が読みたいという人が『私の部屋』を読み始めたんじゃないかしら。

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ダンスクなどがの紹介がある特集「キャセロール」(NO.10)。「高いもののなかに、手が届くものもちゃんと入ってるの。それがよかった」(Mさん)。

『私の部屋』を初めて知ったとき、どんな雑誌だと思いましたか。
M  ほかにない感じ。
B   センスがいいし、写真がきれい。
M  マイナーだなとは思ったけど(笑)。
B   載っているものが、他の雑誌とは違ったわよね。おもしろかった。
M  ただ写真がきれいなだけじゃなかったのよね。エッセイも読みがいがあってね。文化度がとても高いというか。今読んでも、充分、引き込まれるし。

文字がたくさん入った、読むところがとても多い雑誌ですよね。
B  うん、読みどころが多くて、とてもおもしろかった。人選もおしゃれだし。それまで誰も教えてくれなかった、知らないことを教えてくれる雑誌だった。
M  少し先を見せてくれたのよね。まだ誰も見せてくれていないものを見せてくれる雑誌という感じだった。
B   いろいろな物や人の紹介も早かったわよね。今でこそ、知られてるけれど熊井明子さんもこの頃はそんなに有名じゃなかったし。この雑誌から巣立った人も多いんじゃないかしら。
M  私、熊井さんにお手紙を出したことあるのよ。それでサイン本贈ってもらって、まだ大切に持ってる。
B  (『私の部屋』のページを眺めながら)すっかり忘れてるんだけど、見るといろいろ思い出すわねぇ。

72年というと、『anan』『non-no』などのファッション雑誌が創刊されて間もない頃です (注7)。でも『私の部屋』は、「ファッション&リビング」と銘打っている割には、ファッション誌という感じがあまりしないですよね。
B   もっと暮らしに焦点を当てた「読める」雑誌だったんじゃないかな。若い女の子向けの洋裁でもファッション誌でもない雑誌って、この「私の部屋」がはじめてだったんじゃないかしら。
M  あの当時、10代から20代の若い女の子向けの雑誌って少なかったのよ。「婦人向け」「主婦向け」または「服飾」の雑誌が多かった。
B  母の取ってた『ミセス』とか『暮しの手帖』は、家にあれば読むけど、若い女の子が、自分で買いたいって買う雑誌って、今と違って、あまりなかった。
M  ファッション誌でもなく、アイドル誌でもなく、婦人雑誌でもない。生活密着でなおかつおしゃれという雑誌ははじめてだったの。若い人むけのね。ちょっと夢があってね。
B   でも主婦になった人でも買える内容だったし。だからとても新鮮だった。そういう新しい層を開拓した、新しい雑誌よね。

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田舎へ移り住んだ若いカップルの暮らし、古い民家を改造して住む、「母から娘に伝える味」といった特集が、度々組まれていました。

「生活密着型」「おしゃれ」「写真がたくさん」「女の子向け」というのがキーワードだったんですね。
M  でもね、生活密着っていってもね。べったりじゃないのよ。一部分だけ、密着してるのよね。密着し過ぎてないから、夢があるの。こうなりたいな、こういう生活してみたいなってね。『私の部屋』には、そう思わせる年上の人たちがたくさん出てた。
B   農業の記事があったり、お母さんから聞く家庭料理の記事があったり、ある部分はすごく新しいんだけれど、ある部分はすごくスローなの。その加減がよかったのよね。ここに出ているものを見て、日本で買えるなら、できることなら実物を見たい!欲しい!買いたい!と思ったもの。
M  でも、ただ売るんじゃないのよね。ものを売りたいというよりも、何かを伝えたいという意味合いの強い雑誌だった気がする。

古くからある日本のものを新しい視点で紹介しなおしたり、郷土料理や田舎暮らしの記事を多く扱う雑誌が、今、流行っています。手づくりを重視し、シンプルな生活を提案するところなどは『私の部屋』にも通じますね。
B  今の雑誌も読んだことがあるけど、こういうの知ってる、こういう考え方知ってる、と思う部分もあるわね。
M  私たちの世代が読む雑誌じゃないかも。でもそれはそれでいいのよ。私たちはあぁ、こういう考え方知ってる、と思って、でも若い人はそれが珍しいし、目新しいし、それでいいのよ。

『私の部屋』ではどの連載がお気に入りでしたか?
B   水野正夫さんの連載がよかったのよね。きれいだった。文章も構成もすてきだったし。「ぽち袋」とか「朱漆」とか。日本の古くて美しいものを、こういう風に取り上げるんだ!という驚きがあった。写真を大きく使ってね。新しかったよね。
M  うん、新しかった。
B   あとはやっぱり熊井さんのエッセイや、内藤ルネさんの連載も楽しみだった。「ポプリ」っていうのも、この熊井さんの連載くらいから使われるようになった気がする。
M  (『私の部屋』NO.10を見ながら)お部屋紹介も、長沢節さんとか、金井美恵子さんとか、長新太さんとか豪華ねぇ。

いつ頃まで買っていましたか?
B   私は働き始めて結婚してからも、割と後まで買ってたわね。子どもが生まれても。たぶん30近くまで買ってたんじゃないかな。
M  毎号は買ってないんだけどね。途中でほら、だんだん変わってきて。エッセイとかそういうのはよかったんだけどね。庭とかインテリア、パッチワーク中心の雑誌になってきてね。

『私の部屋』から影響を受けたこと、今、考えると、ということありますか?
M  主流じゃなくてもいいんだなーと思えるようになった(笑)。マイナーでもいいんだなって。

趣味性が強いものを好むということですね。『私の部屋』が当時の読者にどんな風にとらえられていたのかを含め、時代が変わっても変化しない女子の好みや住み分けみたいなものもうかがえて面白かったです。ありがとうございました。

(2008年4月1日)

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(注4)… 【1972年当時の物価】 封書を出すには切手20円(現在80円)、葉書は切手10円(現在50円)、東京の営団地下鉄最低区間40円(現在160円)、大卒の初任給5万4001円(現在東証1部上場企業で20万4333円)でした。
(注5)…『セブンティーン』(集英社)は1968年に「ティーンのための総合週刊誌」として創刊。1973年には月刊『セブンティーン』もスタート(86年廃刊)。現在まで続く「メジャー」「NO.1」ティーン雑誌です。
(注6)…『私の部屋』は、『服装』の臨時増刊としてスタートしました。『服装』から『私の部屋』が生まれた詳しい経緯は、『本と女の子』(近代ナリコ)の内藤ルネさん・本間真左夫さんへのインタビューで紹介されています。こちらもぜひ。
(注7)… 『anan』の創刊は、1970年。『non-no』創刊は1971年。


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