明治27年に生まれ、大正、昭和を生きた女性・森田たま。彼女が随筆に綴ったのは、日々のあれこれ、大好きな着物のこと、多くの知人たちとの交流・・・。
森田たまの文章は、
「黄八丈のしつくり似合ふ女は、さうやたらにはゐないやうである。渋いやうで案外派手で、粋なやうでそのくせ品があつて(略)品のよい中に一点しどけないところがあり、人の心をかきみだす着尺である(『絹の随筆』)」等、好きな着物についてのものはもちろん、日本の豊かな四季をしみじみ感じさせる随筆や、竹久夢二の千代紙に夢中だった明治・大正の女の子の生活など、癖がなくって読みやすい。
あ、いいなと思う何気ないエピソードが、いっぽんパシンと筋の通った知性と、女性らしい視点でもって語られています。
そして、なによりも、一番最初の『もめん随筆』から、最後の著書となる『きもの歳時記』まで、森田たま自身が自分の好きな着物柄でつつんだ“かあいらしい”装幀も見逃せません。この、なんともいえない“かあいらしさ”も森田本の大きな魅力です。
今回は、『いろは』創刊号で紹介しきれなかった森田本をできるだけ取り上げました。森田さんの本は(随筆集というのもあり)、最初のページからきちんとしゃちほこばって読むよりは、適当に開いたページや自分の好きな章から読み進めるのにぴったり。
秋の夜長、お菓子とお茶をかたわらに、着物柄の一冊を開いてみてはいかがでしょう。
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